【カツベン!】日本映画のはじまりを描く痛快活劇。周防正行監督・片岡一郎さん(活動弁士)ロングインタビュー
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2019年9月2日
映画がまだサイレントだった大正時代を舞台に、一流の活動弁士を夢見る青年の夢や恋、青春を描く周防正行監督の最新作「カツベン!」。
12月13日の公開に先駆けて47都道府県の全国行脚を行う、周防監督と活動弁士の片岡一郎さんに、作品についての話を伺いました。
ー鹿児島の印象は?
周防正行監督(以下 周防):鹿児島にはよく来るんです。桜島の長渕剛さんの像にも触ったことありますし。“からから”というとんでもないバーとかね(笑)。親しい人もいますし、縁があるんです。
片岡一郎(以下 片岡):無声映画は幕末ものって多いんです。西郷さんなどのキャラクターがここから来てるんだなというような、自分がやってきたことと現実が今つながっている感じがしています。
ー本作のテーマとなっている「カツベン=活動弁士」とは?
周防:昔まだ映画に音がなかった時代、日本ではスクリーンの横に活動弁士さんが立って、上映に合わせて映画の解説をしていました。登場人物になってそのセリフを言ったり、ナレーターのように状況を説明したり、1本の映画をきちんとお客様に届けるとそういう役割をやってたんです。これって日本独特のスタイルで、アメリカでもヨーロッパでも、活動弁士と言われる人が映画を見せていたということはほとんどない。日本独自の文化なんです。
ーでは、外国では音のない映画をどのように見せていたんでしょう?
周防:音楽と字幕だけで見せていたんです。活動弁士のようなやり方を試みられたことも少しあるみたいですが、定着しませんでした。日本人は、人形浄瑠璃や落語など、語りの芸能に慣れ親しんでいたので、スクリーンの外から聞こえてくる声や音に対してなんの違和感も持たない。そういうことで物語をきちんと受け止めるという文化があったんです。外国と異なるその文化状況があったことが、活動弁士が成立した一番大きな理由なのかなと思います。
片岡:なんで日本だけだったかということは、いろんな人が考察しているんですけど、決定的な理由は見つかっていないんです。僕は海外の仕事も結構多くて、アメリカとかヨーロッパとか中国とか、いろんな国の映画祭に呼んでいただくんですけど、こういう無声映画の見方があったんだね、ということを今になって世界が発見しつつあるというのが現状です。
周防:本当に世界中の人にこの文化を知らせたかったんです。今の多くの日本人もこういう風にして映画の上映が始まったって知らないので。その歴史があって今の映画があるっていう、それがとても僕にとって大事なことだと思いました。
片岡:文化って動く時は、みんなが足並みを合わせるんじゃなくて、あっちもこっちも同時多発的にいろんなことが発生していって、それが大きなうねりになるということがあるんですけど、この映画の公開をきっかけに、そうなるといいなと思っております。
ー作中で活動弁士の「語り」のシーンを見たのですが、本当に面白くて新鮮で、引き込まれました!
周防:アニメーションの声優さんって弁士に近いと思いません?アニメーションが盛んになって、若い人が声優を目指すって、やはり語りというものが日本人にとって特別な魅力があるんだと思います。実際に声優さんのように、スクリーンの横に複数の弁士が立って写っている人に合わせて、この役はこの人って、声を変えてアフレコみたいな感じでもやっていたそうです。
あともうひとつは、アナウンサーの実況中継だなと。例えば古舘伊知郎さんがプロレス実況をする。するとファンは古舘さんのアナウンスでプロレスを見たいとなるでしょう。あの活動弁士さんの活動であの映画が見たいと映画館に行った。そして映画館の専属で弁士さんがいたので、人気弁士がいるということは映画館にとっても大切なことで、映画館同士で人気活動弁士さんの引き抜き合戦があったと。そういう花形職業、スターだったんです。今の声優さんにみんなが憧れるようなイメージです。
片岡:声優さんもそうなんですけど、YouTuberにも似てるかなと。日本人って節操なく流行ってるものにいくじゃないですか。で、儲かっている人はものすごい儲かっていて人気があって、でもそうでもない人は割とそうでもないという状況も含めて、弁士とYouTuberっていうのは今近いのかなと思います。
周防:YouTubeもまさに新しい世界ですからね。写真が動くということに人々がどれほど驚いたか。僕らは映像に囲まれて生きているからそういうことに敏感ではないけど、当時の人の驚きはすごかったんじゃないかと思います。
片岡:列車が駅に到着する初期の映画があって、奥から手前側に列車が来るんですけど、それを見たお客さんが逃げ出したというエピソードがあるんです。客席に列車が走りこんでくるって思ったって。それくらい写真が写真が動くということにリアリティを感じたんですね。
ー主演の成田凌さんはオーディションで選ばれたんですよね。その決め手は?
周防:映画界そのものが若い時代だったので、未知のものに挑戦していく初々しさがある人がいいなと思っていて、成田さんだけではなくて黒島結菜さんもそうですけど、ヒーローとヒロインの2人には、そういうフレッシュな感じがほしいというのがありました。
ただ、成田さんは今時の二枚目だと思っていたら、実は割とお茶目なところもあるというか、可愛い、三枚目的な人でした。それがすごい良かったです。
ー活動弁士としても語りのシーンも、実際に本人が語っているんですよね。
周防:クランクイン2ヶ月前から、今日本で活躍している活動弁士さんをいろんなところで見て回りました。その中で片岡さんと坂本頼光さんという方がいて、その2人が割と対照的で、タイプがはっきり違う。それぞれ個性的で、1人の人に指導してもらうとやっぱり師匠に似るというイメージがあったので、だったら2人タイプの違う人で、役柄によって指導する人を変えたらどうだろうと。成田さんはヤンチャな感じにしたかったので坂本さん、高良さんのきちんとした弁士として誇りと自信のあるキャラクターは片岡さんにお願いしました。
役者さんたちには、とにかくこの活動弁士としての語りがちゃんとしてないと、なんの説得力もない映画になってしまう。これがプロのレベルじゃなかったら役成立しないから、ってとにかく一生懸命やってもらいました。
片岡:僕は高良さんの指導が中心で、成田さんにも2回ほどお会いしたんですけど、やっぱり飲み込みが早いですよね。無声時代のスター弁士って、1年2年でトップになるんですよ。成田さんとか高良さんを見ていて、こういう飲み込みの早さと輝きがある人たちだったんだな、俺にはないなと思いました(笑)。この人たち弁士を続けてくれないかな、というようなことも真剣に思いましたね。
ー作中で1番見てほしいポイントは?
周防:活動写真って、活動弁士だけじゃなくて、映画そのものの作りも今の映画ともちょっと違う。まだまだどうなるか分からない、新しい世界に若者が飛び込んでいって、自由奔放にやってみたという楽しさがあると思うんですね。そういう初期の活動写真が持っていたエネルギッシュな面白さというのを、この映画全体にも感じてほしいと思って作ったんです。出てくるアクションにしてもお笑いにしても物語の展開にしても、そのテイストをまとっていると思うので、そういうものを楽しんでほしいです。
ー映像を作る上でのこだわりは?
周防:最初は今残っている、本当に大正時代に作られた映像を使おうと考えたんです。だけど、作中全体が僕が再構築した大正時代なんです。その中に、本物の大正時代に作られた映画を入れることが怖くて。そこだけが生々しいというか、そこだけドキュメンタリーになってしまわないかと。だから、作中の活動写真は、全部オリジナルで撮り直しています。実際に大正時代に作られた映像と同じようなカット割やセット、衣装もメイクも同じような感じで真似して撮影しました。
僕は初めて映画全体をデジタル撮影で作ったのですが、活動写真ってまさにフィルムの映画ですから、せめて再現する映画はフィルムで撮りたいなと思って、何本かは本当に35ミリのモノクロフィルムで撮っています。
ー本作をどういった人に見てほしいですか?
周防:今映像に囲まれて、生まれた時から映像があったという若い世代に「こんな風にして映画が始まったんだ」というのを一番知ってほしいです。今の映像とはちょっと違う魅力があるので、そこを感じてほしいなと思っています。まさにYouTuberとか。
ーYouTuberも本作に影響を受けるかもしれませんね!
片岡:たぶん真似する人いるんです。というのも、ネット上に著作権の切れた無声映画ってちょいちょいあがっているので、これに喋り付ければいいじゃんと思う人、絶対出てくると思います。
ー最後に一言お願いします。
周防:映画の歴史の話ばっかりしちゃいましたけど、映画そのものは楽しいものなので、リラックスして楽しんでいただいて、日本映画の歴史、初めて写真が動くのを見た時代の人たちの気持ちを考えていただけたらいいなと思います。
片岡:弁士を仕事でしていて、この作品が作られるというのを聞いた時に、嘘だろと思ったんです。作品が面白いということもそうなんですけど、いろんなことって続けてるとご褒美があるよね、って思う時があって。いろんなことを頑張っている人に、こんな良いことがうちの業界にあるんだ、みんな信じて頑張ろうぜって伝えられるような、そんなエールになりました。ぜひ見て、みんなで盛り上げて、自分たちの活動への活力につなげていきたいなと思ってます!
[text=フク シネマコーナー担当。作中の成田さんのキュートさにノックアウト!]
- 住所:鹿児島市
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