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映画『羊の木』吉田監督&田中泯登場の舞台挨拶をレポート!

映画『羊の木』吉田監督&田中泯登場の舞台挨拶をレポート!

  • エンタメ

山上たつひこ(「喜劇新思想体系」「がきデカ」)、いがらしみきお(「ネ暗トピア」「ぼのぼの」)、2人の日本ギャグマンガ界のレジェンドが原作と作画でタッグを組んだ問題作「羊の木」。2014年(第18回)文化庁メディア芸術祭優秀賞に選ばれたこの傑作コミックを映画化するのは鹿児島出身の吉田大八監督。原作の設定はそのままに、抽出したエッセンスを元にプロットを再構築。映画オリジナルとなる衝撃のクライマックスに、あなたは何を感じますか?ー

羊の木_カゴプラ

『羊の木』大ヒット上映中
◆公開劇場:TOHOシネマズ与次郎、鹿児島ミッテ10
◆コピーライト:© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社
◆配給:アスミック・エース

  • あらすじ
    さびれた港町・魚深(うおぶか)の市役所に勤める月末一はある日、転入者6名の受け入れ担当を命じられる。職場も住むところも決まっているという6人の男女。違和感を抱いた月末はやがて、上司から驚くべき事実を告げられる。彼らは自治体が身元引受人となり、刑期を大幅に縮小されて仮釈放された元受刑者だというのだ。刑務所のコスト削減と地方の過疎化対策を兼ねた、秘密の社会実験プロジェクト。“異物”を受け入れた町の日常は、少しずつ狂い始める…。
  • キャスト
    錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 水澤紳吾 田中 泯/松田龍平
  • 監督
    吉田大八


大ヒット上映中の映画「羊の木」。鹿児島出身の吉田大八監督、劇中でクリーニング店で働く大野克美を演じる田中泯さんが来鹿。満席の会場で舞台挨拶を行いました。その内容をほぼフルでお届け!(がんばった!)
お二人が語る「映画」の話、どうぞじっくりご覧くださいませ〜。

羊の木_カゴプラ

  • 田中泯
    1945年3月10日生まれ、東京都出身。74年独自の活動を開始。「ハイパーダンス」と称した新たなスタイルを発展。78年ルーブル美術館において海外デビュー。80年代、旧共産圏で前衛パフォーマンスを多数決行し国際的に高い評価を獲得した。
    鹿児島には縁があるという田中泯さん。幼い頃から好きだった踊りを習おうと決心した時、最初に師事したのが鹿児島・大口出身の先生だったそう。内弟子として住んだ先生の家の物置に山とあった焼酎をこっそりいただいていた、なんてエピソードも話してくれました。劇中では過去に殺人を犯し懲役18年を言い渡された元受刑者で、仮釈放後はクリーニング店で働く「大野克美」を演じています。

 

羊の木_カゴプラ

  • 吉田大八
    1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクターとして国内外の広告賞を受賞する。2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。同作は第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され話題となる。その後『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10)、『桐島、部活やめるってよ』(12)、『紙の月』(14)とコンスタントに作品を発表。17年は、三島由紀夫の異色のSF小説を映画化した『美しい星』の公開のほかに、作・演出を手がけた舞台「クヒオ大佐の妻」の上映が評判となる。
    鹿児島出身の吉田大八監督。撮影中に田中泯さんが鹿児島に縁があることを知り、鹿児島に一緒に行けたらいいですねとダメ元で話していたことが実現した歴史的な日、と話していました。


ー吉田監督は「大野」役は絶対に泯さんにお願いしたいという熱烈なオファーをしたとききました
吉田大八監督(以下 吉田):「大野」っていう役は、18年間刑務所にいる役なんです。その長い間の感情とか、自分が人を殺めた記憶とか、そういったものが積み重なって今、どういう状態でいるんだろうっていう所を想像しかできず、確信が持てない中で、泯さんがご自分の身体で表現なさってきたことをお借りできないかとお願いしました。「大野」という役についてご相談をするような気持ちで。
ただ、泯さんすごくお忙しくて、きてもらえなかった場合はこの役はシナリオから書き直さなきゃいけないという風に思っていました。
キャスティングってそういうもんです。タイミングとかご縁がある中できていただけたという経緯でしたね。

田中泯(以下田中):僕は映像のお仕事を引き受ける時、台本を読んで、ちょっとした運命の違いで自分が「大野であったかもしれない」っていう風に思うようにして、そしてその仕事をやれるかもしれない、やれないかもしれないって考えて引き受けるか引き受けないかを決めるんです。残念ながら僕は刑務所に入ったことは本当にないんだけど(笑)、18年間というのはいろいろ想像はできても、1人の人間の内側っていうのは言葉にできないものを無数に抱えていると思うんです。

羊の木_カゴプラ
身体っていうのは、自分でも気がつかないことをたくさん発しているんですよね、それが僕にとっては踊りが大好きな理由の1つであるんですけど。
自分でコントロールできないものが、自分の身体からぴょこぴょこ出ている。それはクセであるかもしれないし、身体が知っているある記憶から出てくる小さな行為・行動・反応であるかもしれない。そんなものが大野の中にきっとたくさんあるんだろうなと思いました。
これ図々しいんですけど、僕は監督と会わずに仕事を引き受けるってことはほとんどなくて、監督がどんな人か、何を考えているか品定めさせてもらうっていうね。しょうがないんですよ、これだけ生きてきちゃったってこともあるし。もっともっと若い頃の僕が言ったら「生意気だ」って言われちゃうかもしれないけど、今はいくら叩かれても平気なんで「やってみろ」って言いたくなるくらいあるんですけど(笑)。
でもそうやって知り合ってできることっていうのがたぶん僕にとっては「演技」なんですね。それが「踊り」にほとんど近いところにあるっていう。
今回はとってもいい機会をいただいて、「大野」のことをまるで他人を語るようにできるっていうのが、僕にとっては一番うれしいことでした。

 

ー現場はどうでした?
吉田
:「大野」という役をどうだ!と泯さんにお渡しして、「大野」の命と泯さんの「何か」が戦う様っていうのを見たかったというところがあります。実際に現場で、僕が想像もしていなかった表情だったり佇まいだったりを日々目にしました。泯さんは「大野」の弱さみたいなものを意識していると現場でおっしゃってたんですけど、それは僕の中に最初はなかった視点でしたね。「大野」は強面で怖い存在の人なんですけど、ずっと長く生きてきて、自分への後悔とかそういったものの積み重ねでどこか弱っているところがあるはずだと。それを具体的に現場で教えていただいたりして。撮影現場でも大野という役が育って行くというか、形になっていく様っていうのは、僕にとっても刺激的でしたね。

 

ー「大野」とクリーニング屋の女店主とのシーンが印象的でした
吉田:あのシーンの感想はよく聞きますね。錦戸君に(月末じゃなかったら)どの役をやってみたいかって聞いたら、クリーニング屋の女主人の役をやりたいって言ってました。
田中:ほんとですか!
吉田:ああいう形で「受け入れ側」の役をやってみたいって言ってましたよ。泯さんとクリーニング屋の女店主・安藤玉恵さんっていう女優さんなんですけど、あのやりとりってのはね。もちろんすべての俳優に僕は自信がありますけど、あのシーンは見る人の心に残るものになってたらいいなと思うし、手応えはありますね。

羊の木_カゴプラ

 

ーこの映画は、観る人それぞれで残っている部分が違う映画じゃないかと思います。

吉田:帰りしなに車の中とか、ちょっとお茶でも飲みながら、どのシーンが心に残ったとか、あのシーンはこういうことを言いたかったんだとか話すと思いますけど、正解は僕の中にもありません。皆さんがご覧になって受け止めてもらったもので、どんどん映画が育って行くっていうのが僕にとっては正しい感覚なので、皆さんが持ち帰っていただく羊の木がどれくらい広がって行くかっていうのが楽しみなんですよね。

 

ー泯さんは映画を観てどんな感想を持たれましたか?
田中:普通映画の感想って、ライン2つか3つかでまとめられるものが大多数なんだろうけど、この映画にはたぶん無数の感想があって、果てしもない数になっていく、それが多分監督の夢だと思うんですよね。(なぜ感想が果てしなくなるか)その理由は単純なんです。映画は人の命を奪ってしまった6人のお話なんです。そこに錦戸さんというコーディネーターであり提案者でもあるという立場のステキな役があるんですけど。その1人1人がね、人類のプロブレム・問題なんですね。
人間という生き物が同類の命を殺すということを未だにやめられない、ぼくは自分勝手に、この映画はそれがテーマだと思っていて、そこに膨大な問題をいっぱいはらんでいるんですよね。そのことは監督は絶対に意識なさっていると思いますけど。それをこの今の時代で、どういう風に皆さんの中に意識してもらえるかってのはとっても難しいと思います。人間って面白いっていえば面白いし、怖いっていえば怖いし、わからないっていえばわからない。人間って本当クエスチョンの存在なんです。その「人間」をどういうふうに生きていこうかってのをこの映画を観ると考えることになってしまうんだろうと思うんですよね。この映画の一番のヒミツは、観ちゃったら皆さんの中から離れなくなるってことだと思います。忘れても、残ってる何かがきっとあるんだと思います。

羊の木_カゴプラ

ーまだまだ映画について語りたいことは尽きませんね
田中:じゃあ次回の上映を省きまして…(笑)
吉田:全然話せますけど(笑)。この映画がね、もっと長い方がよかったていう話も聞いたりするんですよ。でも、2時間で語りきれなかったら、100時間使っても語りきれない映画だと思うんですよね。
「こういうものを作ろう」と僕が意図しているっていうのは半分くらいしか本当ではなくて、そういうものが「できてしまった」という感覚なんですね。例えば泯さんに出てもらって、松田龍平、錦戸亮、のほかいろいろな俳優やスタッフの力で、出来上がって行くんです。完成した後に俳優・スタッフ含め鑑賞した後、みんなすごい黙ってたんです。なかなか言葉が出てこなくて。その時泯さんが「この映画の最もいいところはこの沈黙だ。みんながまず黙って自分の中で一生懸命消化するその時間に価値がある」というような評価をしてくださって、その言葉に僕は救われたというか。
そういう映画を作ったことが、自分にとってはすごく意味のあることだったと思いますし、僕自身もこの映画についてずっと考え続けているんですよ。考えながら撮って、映画が出来上がった後もこうやって映画をもっていろんなところで話す度に考えるというか、話す度に言っていることが少しずつ更新されていくというのが自分の中でもすごく特別なことなので。そういった自分の中の「揺れ」みたいなものがいろんな環境にいる人たちにうまく伝わって行ってるなと手応えは感じてますね。
田中:どんな反応してもいいと思うんです。拒否しても反応だし。僕は無理して話すことが大っ嫌いで、逃げ出したくなるってのが子どもの頃から今でもそうなんですけど。それでも「人間を信じる」っていうのは(生きる上での)絶対条件ですよね。で、その信じる人間っていうのを自分の想像の中でもいいから作れれば一番楽しいんじゃないかなと思います。「こんなやつになりたい」とかそういったことも映画の中にたくさんちりばめられているような気がしますね。

 

羊の木_カゴプラ

ー映画の解釈は自分で作っちゃっていいんですね?
吉田:もちろんです。先ほども言いましたが、はっきりとした答えが僕の中にあって、それをみなさんに伝えるために作った映画ではないので、泯さんがさっき言ったように考え続けるってことが大事なんですよね。考え続ける過程の中でこの映画ができたと思っています。
田中:言葉で決着できるものなんて、人間の社会では本当はあってはならないんですよね、多分。もっと言葉以前に理解し合える人間の世の中なんじゃないかなって思うんです。
吉田:劇中で「肌で感じることは大体正しいんです」と「大野」が言いますよね。そしたらそれに女店主が「私が肌で感じることは違う」と返す。(その違いを)お互い知ることから(人間関係が)始まるわけです。そこで対立して離れたままだと、争ったり決別したりしなければならないけれど、それでも一緒に生きて行けるという可能性に向かって開いているだけでも救いはあるんじゃないかなと僕は思ってます。

 

ーまだまだ話したりませんが、最後にメッセージをお願いします

羊の木_カゴプラ
田中:皆さんが映画を観た後は、完全に映画の主体は皆さんなんですよ。映画を観た次の瞬間からどんなことを思い、どんな行動をするのかっていうところにひょっとしたら、ふわ〜っと映画がくっついているのかもしれない。そのくらい僕は映画の力ってものをみせられた経験でした。(劇中のシーンで)刑務所から出てきて錦戸さんと会うシーンは、短い時間なんですけど、あれは僕にとっては踊りの真剣な練習に近いというか、未だにもう一回あれをやりたい、明日またやりたいというくらいに感じます。
あの時の「大野」にものすごいたくさんのものが詰まっている。でもその詰まっているものを表現するんじゃなくて、見えるようにするんじゃなくて、詰まっているものと一緒に歩いている、そんなことをやらせていただけたすばらしい映画だったと僕は思います。これは本当に僕の経験に対する感謝とお礼なんですけど。
皆さんが今日映画を観て経験したことは、ほかの人に話さなくてもいいと思います。「あの映画行けよ」なんて言わなくてもいいと思います(笑)。その経験の表現の仕方には実はいろいろな形があると思います。
鹿児島に雪が降るっていうめずらしい時に、こんな風に皆さんにお会いできて、おしゃべりを聞いてもらえるなんてとんでもないことになりました。本当に今日はありがとうございました。

 

羊の木_カゴプラ
吉田:泯さんはご自分でもおっしゃっていましたが、こういうところでお話されることは本来あまり得意とされてないというのは日頃から聞いていたんですけど、こうやって一緒に映画を作ったというよしみでね、無理にお願いを聞いてもらって泯さんの長い言葉を改めて聞くとやっぱりご一緒できてよかったし、この映画を作ったことに意味があったし、この時間を皆さんと共有できたことにも意味があったはずという風に思いたいです。
僕は観終わった後に引きずって持ち帰ってしまうような映画が若い時から好きで、この映画がみなさんにとってもそうなっていればいいなと思っています。映画の上映はまだ続きますので、引き続きいろんな形で応援していただければ幸いです。今日はどうもありがとうございました!

 

時間いっぱいまでじっくりお話をしてくださったお二人。正直まだまだお話してほしかった…!あのシーンやこのシーンについて語り合いたかった…!田中泯さんが時々笑顔を見せながら、とても楽しそうにお話している姿が劇中の「大野」と重なって、シャッターを切りながらこっそり胸を熱くしておりました。「何か」が残る映画『羊の木』、ぜひ劇場に足を運んでみてくださいね!

<text あんこ34 踊るようにお話する田中さんの所作にホレボレしてました>

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2018年3月、現在の情報です。
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